グルメ
TASTE
健やかな暮らしを支えてきた
里山の豊かな食
最寄駅から温泉郷まで向かう道中、バスの車窓からたくさんの畑を見ることができます。のどかな農村の風景に、懐かしさを感じるかもしれません。多くの家庭が自分たちの畑を持っており、春と秋に種を蒔きます。旬の食べ物や発酵食品には、季節ごとに現れる体の不調を解消してくれる力があります。春の山菜は冬の間に体内に溜め込んだ毒を排出する作用があるし、夏野菜の多くは体を冷やす効果があるのです。野菜が少ない晩冬は、発酵の力を使った保存食を活用します
豊かな自然に恵まれた塩原では、山に入れば山菜、きのこ、野生動物を手に入れることができます。それらは自然の中で生まれ育つ恵みではありますが、里に暮らす人々の手によってゆるやかに守られています。自然との関係を感じながら体の内側から健康になっていくことは、ウェルビーイングを高めることに繋がります。パッキングした状態で用意された食べ物は品質が均一で調理もしやすいでしょう。しかし、産地に足を運び、その場所の水を飲み、いただく食べ物は、一味違う幸福を与えてくれるものに違いありません。
塩原の地形と気候を生かした
美味しい野菜
標高が高い地区では、「塩原高原大根」をはじめとした高原野菜の栽培が行われています。約30万年前まで、塩原温泉郷は湖の底でしたが、火山活動を経て現在の地形となりました。水はけと保水性の良い土壌は、大根の生育に適した環境です。包丁を入れると吸い付くほどのみずみずしさがあり、生でかじるとパリッとした食感、口に入れた時に染みわたるジューシーな旨味と優しい甘さを感じます。大根が育つ高原では、夕方以降から夜にかけて気温が下がります。すると寒さに耐えるため糖分を蓄えようとするので、甘味が強くなるのです。大根の他にも、カブ、ほうれん草など豊富な品種の野菜が栽培されており、温泉旅館の夕食でも提供されています。美味しい野菜に欠かせないのが良質な水です。塩原は山水が豊富で、栽培はもちろん収穫後の加工でも使用されます。山水は温泉街にも届いています。いくつかの軒先には山水が流れる鉢が置かれており、街の人たちはお茶や料理に利用しています。
先人の知恵が詰まった
保存食文化
雪深い塩原では、野菜を収穫できない冬期を凌ぐために多くの保存食が生み出されました。発酵の力を用いており、保存可能期間の長さと高い栄養価が特徴です。大根は「たくあん」という漬物に加工されます。天日干ししてから糠と塩に漬け込んだもので、大根の旨みが凝縮されています。旅館の朝ご飯では定番の付け合わせです。鮭の頭や大豆、大根、にんじんを、酒粕(日本酒を作る際に出る発酵した米の搾りかす)と混ぜ合わせた「しもつかれ」もこの地域では定番の保存食です。カルシウムやタンパク質が豊富で重宝されてきました。現代は流通が発達し暖かい地域から野菜を運ぶことができますが、一部の家庭では昔ながらの食生活が守られています。
LOCAL DELICACIES
お気に入りが見つかる!
塩原温泉だけのご当地グルメを楽しもう
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とて焼き
「最大限オープンなご当地グルメ」
とて焼とは、那須塩原市産の牛乳と卵を使って焼き上げた生地をラッパ形に丸めたグルメ。
塩原温泉郷に点在する12店舗が、それぞれの得意分野を生かし、甘い系からおかず系までさまざまなトッピングを加えています。
老舗和菓子店・榮太楼はもっとも早くからとて焼を提供する店舗の一つ。レコード盤サイズの生地に、自家製あんこと旬のフルーツを贅沢にトッピングした「きまぐれとて(500円)」を提供しています。あんこが苦手な人はチョコレートへの変更が可。榮太楼では「くるみ最中」や「温泉まんじゅう」など和菓子店ならではのメニューに加え、パティシエとしての経歴をもつ店主・君島達己さんの技術を生かした焼きたてパンも販売しています。2023年からは職人によるレクチャーつき「とて焼体験」がスタートしました。
「これまではとて焼を食べてくれるお客様と深く対峙したことがありませんでしたが、実際に自分たちの手で焼いて、好みのトッピングを楽しんでいる姿を見られることを嬉しく思います」
震災直後、観光客がめっきり減った塩原温泉郷では、何か新しいことをはじめようとご当地グルメ開発計画がスタートしました。とて焼は達己さんをはじめとした3店舗によって発案され、希望するお店に基本のレシピを共有。町ぐるみでとて焼を広めるようになりました。「とて」というフレーズは、かつて温泉街を周回していた馬車の名前が由来だそう。「全盛期には26台運行していました。子どもの頃に見たあの景色が懐かしいです。震災を機に営業をストップしていますが、塩原の楽しみ方を多くの人に知っていただき、町が昔のように賑わった暁に、とて馬車が再開する日を夢見ています」
プログラム
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